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心理学ワールド 88号 小特集 子どもの数理解と文化 榊原 知美(東京学芸大学) | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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23 小特集 心の発達と文化 えば,「twelve」)。このような文 化による数詞システムの違いは, 幼児期の数詞の獲得だけではな く,就学後の位取りの概念の獲得 や2桁の数の計算などにも影響す るといわれています。 幼稚園・保育所や家庭での 子どもに対する関わり方  幼い子どもは園や家庭におい て,算数に関わる多様な活動を 日々行っています。そのような子 どもの活動は,大人や場のデザイ ンに支えられながら行われます が(Rogoff, 2003),子どもの学び に対する大人の考え方や教え方は 文化により異なります。例えば, 同じ東アジアの中でも,中国の幼 稚園では,伝統的には子どもに数 を体系的に教えてきましたが,日 本の幼稚園の場合,保育者が体系 的に数を指導することは一部の園 を除いてほとんど行われていませ ん。トビンら(1989)が行った日 米中の国際比較研究では,米国や 中国に比べ,日本の保育者や保 護者は幼稚園・保育所でのアカ デミックな指導に力点をおかず, 「思いやり・共感・他者への配慮」 を学ぶことを重視する傾向にある ことが報告されています(他に も,唐澤ら,2006)。こうした日 本の大人の信念が,体系だった数 の指導をしない保育のあり方に反 映されていると考えられます。た だし興味深いことに,日本の園に 言語の影響  幼い子どもは周囲の大人や年上 の子どもが使っている言葉を通し て数の世界に触れていきます。日 本語の場合,言葉を話し始めた子 どもは,はじめに一つのモノと 「いち」という言葉を対応づけて 理解し,続いて「に」「さん」の 意味も理解するようになります。 2歳前後になると自分でも「い ち,に,さん」などと数を唱えた り,覚えた数詞を用いて間違えつ つも事物の数を数えようとしはじ めます。こうした日常生活の中で の経験を通して,おおよそ3歳半 ごろには事物の数を数えることが できるようになります。  このように子どもは,自分が生 活している文化で共有されている 数に関わる言葉を用いて数を扱う 経験を積んでいくため,子どもの 数理解には,母語の特徴が影響す ることになります。数理解に対す る言語の影響については,これま で数多くの研究が行われてきまし たが,その中でもよく知られてい るのは,十進法に基づいた表記に 規則正しく従う東アジアの諸言語 の数詞が子どもの数理解を容易に しているという指摘です。例え ば,日本語と英語を比較した場 合,日本語ではすべての数詞が規 則正しく桁に対応していますが (例えば,「じゅう−に」),英語で はあいまいなものがあります(例  算数や数学につながる知識を, 幼い子どもはどのように身につけ ているのでしょうか。算数という と小学校における教科のイメージ が強いですが,実は,数をめぐる 子どもの学びは誕生直後から始 まっています。子どもは日常生活 の様々な場面で,数や形をあつか う経験を積み,それらを学校での 学びに結びつけていきます。2000 年代になって行われたメタ分析研 究でも,このような就学前の子ど もが身につけている数知識が小学 校以降の算数・数学の達成度を予 測することが確認されており,就 学後の学習の基礎としての就学前 の数知識の重要性はますます注目 されています(例えば,Watts et al., 2014)。  このような幼い子どもの学び は,ヒトが生得的にもつ能力に支 えられて進みますが,当然のこと ながら,その学びの過程には文化 が大きく影響します。これまで数 多く行われてきた国際比較研究で は,アジアの小学生の算数の達成 度が高いことが繰り返し報告され ていますが,同様の傾向は,まだ 学校での教育を受けていない,幼 児の数知識についても確認されて います(Starkey & Klein, 2008)。 幼い子どもにみられるこうした国 による差は,数知識の発達に子ど もをとりまく文化が影響している ことを示すよい例でしょう。

子どもの数理解と文化

東京学芸大学国際教育センター 准教授

榊原知美

(さかきばら ともみ) Profile─ 慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(教育学)。洗足学 園短期大学幼児教育保育科講師,東京学芸大学国際教育センター講師を経て,現職。 専門は発達心理学。著書は『算数・理科を学ぶ子どもの発達心理学』(編著,ミネル ヴァ書房)など。

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24 おいても数を全く扱っていないわ けではなく,保育者は日常の様々 な活動の中に,それとは意識せず に数に関わる援助を頻繁に埋め込 んでいることが明らかになってい ます。例えば,製作の材料の数, 大きさ,形を子どもと一緒に確認 したり,出欠を確認する時に男女 の欠席人数の合計を子どもに質問 するなどです。このような日本の 保育に特徴的な埋め込み型の援助 スタイルが,子どもの数知識の発 達を効果的に促していることもわ かっています(榊原,2006)。  5歳児クラスのエピソード  [先生が]男児から先に名前を 呼んでいく。「○○くん,お休 みです」と先生が言うと,子ど もたちが声をそろえて「(お休 みが)1人」と言い指を立てる。 休みの人数が増えると,それに 合わせて指を立てていく。男児 を呼び終わると,先生は「男の 子何人だった?」と尋ねる。子 どもは各々「いち」「ひとり」な どと言う。……女児も全員呼び 終わると先生が「今日は4人お 休みがいます。……さあ問題で す。す み れ 組は26人 います。 4人お休みでした。今日はすみ れ組さん何人でしょう?」子ど もたちが「22」と言い,先生は 「正解。22。当たり」と答える。 「先生入ると23」と言う子ども もいる。(榊原,2014aより)  家庭でももちろん子どもの多様 な数活動をみることができます。 食事の際に準備するお皿の枚数を 数えたり,日本ではお風呂で数を 唱えることなども思い浮かぶかも しれません。子どもは家庭におい ても,大人との会話などを通し て,日々,数に対する理解を深め ています(Levine, 2010)。 文化間を移動する子どもの学び  特定の文化がその文化の成員に どのような援助をしているのかと いう視点に加え,近年では,より 現実的な課題として,複数の文化 をまたいで移動する子どもの学び の構造を明らかにすることも求め られています。近年,外国人の定 住化傾向や国際結婚の増加にとも ない,日本においても外国籍の子 どもの人数は増加傾向にありま す。来日の時期にもよりますが, このような子どもの多くはいわゆ るバイリンガル環境におかれるこ とになります。最近の研究では, 二つの言語を用いて学ぶこと自体 が数知識の発達に特に不利に働く ことはなく,認知の発達全般でみ ればむしろプラスに作用する場合 もあることがわかっています。問 題となるのは,家庭の社会経済的 地位で,それが低い場合,数知識 の発達にもネガティブな影響があ ることが指摘されています(例え ば,Sarnecka et al, 2018)。 さ ら に,移住などによって異文化で生 活することになった子どもの場 合,先ほどみた子どもの学びに対 する大人の考え方や教え方が,家 庭と園や学校で異なる可能性があ り,それも数知識の発達に影響 することが考えられます(榊原, 2014b)。このような信念の違い は,子どもの数の学びに混乱を生 じさせることもあるかもしれませ んが,逆に数をめぐる子どもの学 びに,単一文化にいる子どもに比 べて,より複雑で豊かな支援を提 供する可能性につながるかもしれ ません。この点については,今 後,さらに研究が必要です。 文 献 唐澤真弓・他(2006)幼児教育の文 化的意味:日本,アメリカ,中国に おける文化間および文化内比較  発達研究, 20, 33-42. Levine, S., Suriyakham, L. W., Rowe, M. L., Huttenlocher, J., & Gunderson, E. A.(2010) What counts in the development of young children’s number k n o w l e d g e ? D e v e l o p m e n t a l psychology, 46, 1309-1319. Rogoff, B.(2003)The cultural

nature of human development. Oxford University Press.

榊原知美(2006)幼児の数的発達に 対する幼稚園教師の支援と役割: 保育活動の自然観察にもとづく検 討.発達心理学研究, 17, 50-61. 榊原知美(2014a)5歳児の数量理解 に対する保育者の援助:幼稚園で の自然観察にもとづく検討.保育 学研究,52, 19-30. 榊原知美(編著)(2014b)『算数・理 科を学ぶ子どもの発達心理学:文 化・認知・学習』ミネルヴァ書房 Sarnecka, B., Negen , J., & Goldman,

M . ( 2 0 1 8 )E a r l y n u m b e r knowledge in dual-language learners from low-SES households. In D. Berch, D. Geary, & K. M. Koepke(Eds.)Language and culture in mathematical cognition. pp.196-228. Academic Press. Starkey, P. & Klein, A.(2008)

Sociocultural influences on young children’s mathematical knowledge. In O. Saracho & B. Spodek(Eds.)Contemporary perspectives on mathematics in early childhood education. pp.253-276. Information Age Publishing. Tobin, J. J., Wu, D. YH., & Davidson,

D. H.(1989)Preschool in three cultures: Japan, China and the United States. Yale University Press.

Watts, T. et al.(2014)What’s past is prologue: Relations between early mathematics knowledge and high school achievement. Educational Researcher, 43, 352-360.

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